丸山重威 (関東学院教授)【いまを読む−若者のためのメディア論】(4)

 

 


 

Change! と Yes! We Can!

若者が加わった「憲法ひろば」の集会から(2)

そう、私たちもできるんだ! 「改憲問題」の現状と課題

         − 問題提起に代えて−

 

▼動き出した改憲組織と日米再編

 

 しかし一方、日本の政治は、この世界の動きから見ると、遅れてしまっているように思えてなりません。

 

 それは、依然として、「勝ち組」「負け組」が生まれることや、「格差」ができることを「当たり前」と思い、「競争」ばかりを煽る「新自由主義」や「構造改革路線」が進み、かつての戦争の犠牲やかつての侵略を反省して、「もう戦争はしない」と誓った戦後の思いを忘れてしまい、いわゆる「冷戦思考」に支配されて、「憲法を変えて日本ももっと強い軍隊を持ち、戦争ができるようにしておくべきだ」という人たちの動きを抑えきれないできているからです。

 

 ことし4月17日名古屋高裁は、自衛隊のイラク派遣について、「憲法違反」とする判決を下しました。原告の請求は棄却し、控訴されなかったのでこれで確定したのですが、政府自身の解釈に基づいて「イラク特措法を合憲としたとしても、戦闘地域で、戦闘行為と不可分な活動をしており、違憲だ」とするものでした。

 

 しかし、判決に従うため、真剣に考えなければならないはずの福田康夫首相は「国の勝訴なんでしょ」と言い、航空自衛隊のトップの田母神俊雄航空幕僚長は「そんなの関係ねえ」と発言し、「裁判所の憲法判断には従う」という法治国家の最低の原則さえ無視して、航空自衛隊の補給・輸送活動を続けました。

 

 11月28日、政府はようやく、国連決議が切れるのに基づいて、航空自衛隊の年内撤収を決めましたが、この姿勢は、「日本は法治国家なのか」という疑問さえ生み出しかねないものだったのです。

 

 そして一方では、アフガニスタンに展開する米軍などへの給油のための「テロ特措法」については、昨年11月に期限切れを迎えたため、いったん撤収しましたが、自民党、公明党による衆議院での3分の2を超える再可決で、憲法に基づき法律が成立し、自衛艦は再びインド洋に派遣されて、給油活動を続けています。

 

 政府はことしも再び、参議院で否決されても衆議院の3分の2の賛成で再可決すればいい、と考え、給油の継続を計画しているほか、国会の承認を必要としない恒久法を制定し、自由に海外に展開できるようにしたい、と考えているようです。しかし、アフガニスタンのカルザイ大統領は「軍事力では解決しない」と明確に言っていますし、オバマ新大統領は、「タリバンとの交渉」も検討しています。

 

 しかし、日本の姿勢は、NGOとしてアフガニスタンで長年井戸を掘りながら、農業指導などの活動をしてきたペシャワール会の伊藤和也さんという有為の青年が殺されてしまう状況を生んでいます。日本がアフガニスタンの人々との本当の友好のために、どう動くかは考えなければならないことです。

 

 日米間の「軍事一体化」は、昨年暮れ、米陸軍第一軍団司令部が、私たちのお膝元、神奈川県・座間基地に移駐してきたのに続いて、原子力空母のジョージ・ワシントンが横須賀を母港として入るなど、着々と進んでいます。

 

 麻生首相は、就任早々の9月25日、ニューヨークの国連総会で「テロとの闘い」を強調し、演説後には、インド洋での米軍などへの給油について「補給活動は憲法違反ではない」「集団的自衛権を禁じた憲法解釈は変えるべきだ」などと話し、解釈改憲の狙いを示しています。

 

 10月17日の衆院テロ防止特別委員会では、民主党・長島昭久氏が「ソマリア海の海賊に対応するため自衛艦を派遣することは効果的だ」と述べたのに対し「すごくいいことだ」と検討を約束しました。

 

 民主党は既に昨年秋、小沢一郎代表が雑誌「世界」の論文で「国連決議があれば海外での武力行使も可能だ」との趣旨を書いて論議を呼びましたが、今国会では、10月20日の同委員会で、直嶋正行政調会長が「民主党が政権を取ればそういう方針で作業に着手する」と述べています。

 

 党内には異論もあるようですが、憲法・安保問題では民主党が与党に近い主張をしていることは気がかりです。本当にそれで大丈夫なのか、米国の言いなりで戦争に巻き込まれる危険はないのか、多くの民主党の議員たちに議論してほしい、と切実に思います。

 

 1955年結成の自主憲法期成議員同盟は、「私の政権で改憲発議を」と意気込んだ安倍首相の下で、2007年1月、中曽根元首相が会長に就任し、同年3月、「新憲法制定議員同盟」に改称、新しい動きを始めたました。自民党だけでなく、民主党や国民新党にも会員、役職者を広げ、民主党の鳩山由起夫幹事長は「顧問」、前原誠司・元代表は「副会長」に名を連ねています。

 

 ことし5月1日、東京・永田町の憲政記念館で開かれた「新しい憲法を制定する推進大会」には、町村信孝官房長官が出席し、「もっと憲法議論を活発にしてほしい」という安倍首相の言葉を伝え、民主党の長島副幹事長も「民主党も憲法改正は党是」と述べています。

 

 10月末、前述した田母神航空幕僚長が、懸賞論文で「我が国が侵略国家だったというのは濡れ衣」、「我が国は蒋介石に日中戦争に引きずり込まれた被害者」、日米戦争も「アメリカに仕掛けられた罠」「アメリカもコミンテルンに動かされていた」などという論文を書いたことが明らかになり、更迭されました。

 

 その後、この懸賞募集グループの代表との密接な関係や、自衛隊の組織的な応募も明らかになりましたし、田母神氏が統合幕僚学校長だったとき「歴史観・国家観」という科目を新設して、幹部に教えていたことや、防衛大学校の必修科目「防衛学概論」の教科書『防衛学入門』では、第二次世界大戦について「自衛を基本とし権益の増大とその衝突」などと記述されていることも明らかになりました。

 

 11月11日、参院外交委員会に招致された田母神氏は、「書いたものはいささかも間違っているとは思っていない」、「自衛官にも言論の自由があるはず」と述べ、憲法についても「直した方がいい」と発言しました。12月1日には外国人特派員協会では、「核保有を議論するだけで核抑止力が向上する」などと述べています。

 

 私がもうひとつ大切なことだと思うのは、「表現の自由」のことです。2月初め、日教組が教研集会のために予約した「グランドプリンスホテル新高輪」は、右翼の街宣活動などを理由に、予約を一方的に取り消してしまいました。裁判所は「取り消しは無効だ」との仮処分決定を出しましたが、ホテルはこれにも従わなかったのです。

 

 4月には、ドキュメンタリー映画「靖国 YASUKUNI」の上映を決めていた映画館が、相次いで上映を中止しました。これも街宣車などによる抗議行動が予想されることなどが原因でした。この問題では、背後に自民党の国会議員が動いていたことが明らかになっています。

 

 市民による自衛隊員が住む団地でのビラ配布について有罪が確定してしまいましたし、調布で起きたような自治体による「後援拒否」も各地で起きているようです。

 

 最近では「麻生さんのおうちを見に行こう」という若者たちの行動が「無届けデモ」とされ、公務執行妨害て逮捕された事件も話題になりました。NHKをはじめメディアを支配したいという動きも、陰に陽に続いています。

 

 憲法−日米軍事関係−歴史認識…。そうした問題はすべてつながっています。問題なのは、このように戦後民主主義が築いてきた国民全体の感覚が、自衛隊の中では公然と否定され、与党や右派勢力、そしてネット言論の世界でも少なからず存在していますし、公然化してきていると思います。

続く